高い城の男(P・K・ディック/早川書房) |
先日思い出したら、つい読み返したくなりました。
裏表紙解説から
・・・第二次世界大戦の勝敗が逆転した世界を舞台に、現実虚構の微妙なバランスを緻密な構成と迫真の筆致で書き上げた。1963年度ヒューゴー賞受賞の鬼才ディックの最高傑作。
舞台はサンフランシスコ、第二次世界大戦が枢軸国側の勝利に終わり、世界はドイツと日本によって支配された世界の話です。
<<もしも・・・>>
そんな世界で「もしアメリカが勝っていたら」という内容の本が発行されていたら?
そりゃ間違いなく発禁処分。
現実でも、この「もしドイツ側が勝っていたら」という内容の「高い城の男」、発表当時ドイツでは発禁だったらしいです。で、本文内容と同じ様に、日本では何ごとも無く発行され、名作と評価も高かったとか・・・
ディックの作品は全般的に、世界設定がSF臭く、ありえない構成で描かれているのに、妙なリアリティが、そこかしこに漂います。「もしも」と描かれているのに、今の現実社会で似たような事がいくらでもあるんですよ。
<<リアリティの要因>>
作中で登場人物達が「もしアメリカが勝っていたら」という本「イナゴ身重く横たわる」(変なタイトルですが、聖書の一文なので)を読むと、それなりに「何かは感じる」のですが・・・別に誰も何も行動なんかしません。
分別や常識もあり、日常を背負っている人なら、フィクション小説読んで、その内容を実現しようと行動なんてしやしませんな。日常を捨てたい人ならわかりませんが。
作品に描かれている人間は、SFにありがちなヒーローやスーパーマンでは無く、現実の人間と変わりなく弱くて、イラついていて、退屈な日常を過ごしているんですよね。
間違っても「天啓」を受けて格好良く行動なんかしないんです。
この「イナゴ身~」を書いた作者でさえ、「これは占いで出た卦」を小説にしただけだと言います・・・これは預言でも政治思想でも無い、占いの結果を集めた、ただのトンデモ本だよと。
オカルトで手軽に解決しない部分も「妙なリアリティ」を醸し出す要因かと。
<<なっちー>>
高い城の男、何が高い評価を受けてるって、ナチ世界の描写です。
ボルマン・ゲッペルス・ゲーリング・・・戦争体験世代の人なら常識として知っている人物名がだらだら出てきて、それらしい役職に就いて世界を支配する仕事やってます。
現実の国にもいそうな「よくいる官僚」らしくね。
なっちー思想を「極端に悪側」に誇張していないので、かなり冷静な視点で読める貴重な小説す。
我々西側視点での教育しか受けてないですから、なっちーネタ、知ってる人しか知らない話に
なってますよね?「知らされてない」「悪として書かれる」からこそ、なっちー格好いい!って思ってる方もいるかもですが。そんな方に、この「もしも」世界を読んでもらいたい。
もしスターリングラードで負けていなければ、そのままオカルトに傾倒する間も無くナチ側が圧勝していたら?案外今あるどこかの大国と、差なんか無い世界だったかもしれませんで?
たいして格好良くも異端でもない思想に姿を変えていたかも?
・・・あそこの国も第一次大戦で疲弊してなきゃ、こんな極端な政治家は出て来なかったんじゃないかなぁ。それは各国どこでも言えるコトなんですが・・・どんな思想も理想の国家を運営するには足りませんよね。
<<Vatigo>>
この現実はいったいどこなのか?
私が見ている現実は、脳が作り出した虚構でしか無いのでは?
そんな目眩を引き起こす世界、それがディック・ワールド!
村上春樹が「ダンス・ダンス・ダンス」で「フォクナーとフィリップ・K・ディックの小説は、神経がある種のくたびれかたをしているときに読むと、とても上手く理解できる」と書いてました・・・その通りデス。確かにハマった当時、相当くたびれてました(^^;)
中高校生とか「人生に深く悩んじゃってる青臭い皆様」にオススメ~あははは~ハマるぞぅ~
<<もう一冊>>
傑作なっちーSF小説と言えば「プロテウス・オペレーション(J・P・ホーガン」なんですが・・・
絶版なのよぅ~手元にも無いのよぅ~祈再版!!(><)